完全に知らなかった

僕たちはわかりあうことができない

短歌たち

私はこの前を読むことが出来ない 翳る悲しみが壁になって過去

スクールバッグ 名前のない”かわいい”がおどるステージへおくるストロボ

何をする人なのかも知らないままに憧れていたのよ調律師

「晩年っていつだったの」と問いかける死にゆくものを見つめる瞳

ぐるぐるとまわる水族館の水 冷たさを知るもののあはれ

糖度を誇る者共の整列なさるショーケース 数限りなく苺

蛇を飲む蛇 蛇を飲む蛇 蛇を飲む蛇 蛇を飲む蛇 蛇を

規則正しく振り子二つが揺れ続け二年に一度触れ合う

半額に変えるシールをはためかせスーパーマーケットがさようなら海

ときどきだけど飲みたくなるんだって笑って一人と一匹で終わらせている

こんなにも失ってみせたのにまるで信じきれないあの映画祭

秋がいる時間だけ開くテーブルと壁の隙間の世界

「濾過をしているんです」 宇宙人にいつか教えてあげたいねバル

生物と非生物の境目をつらぬいてゆくつまらないうた

生命線をずっとずっとずっと伸ばした先に運命がある姿勢で眠る

尊さを意味します ああ わかっていたような気がします 意味 無意味 意味

この白髪、若い頃からあるんです。クローンじゃないって信じてくれます?

調理器具がわかるわたしとわからないあなたが暮らす以前のタイル

逆再生するみたいにこれが魔法じゃないと教える仕草

また一人ともだちを減らして透明度で満ちていくこのフィギュアケース

妹が夕べ泣いていたあたりに埋めたことがあるいきもののこと

小鳥にとってはあの部屋だけが世界の全てなんですよ 副機長より

身体に良い物売りの列 「早くしろこれは寿命との勝負なんだぞ」

土星の輪をつなぎとめているものたちの正体がきょうわかったらしい